大判例

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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)5960号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、そこで、本件荷おろし作業中の事故が自賠法三条にいう「運行によつて」生じた事故に該当するか否かについて考察する。

自賠法二条は「運行とは人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう」と規定している。右にいう「当該装置」の語意については見解の分れる処であるが、これを「原動機装置」に限るとする考え方は「運行」を「運転」と同様に解するもので採用の限りでなく、又「走行装置」を指すとする考え方も自動車を停めて下車すべく扉を開いた途端足踏自転車が扉に衝突した場合など、社会通念上「運行」中の事故とみるのが相当であるものを除く結果になり、概念としては狭きに失する。当該装置とは、自動車の車種、用途に応じて構造上設備されている各装置例えばダンプカーのダンプはもとより、普通貨物自動車の荷台、側板等固有の装置を指称するものと解するのが、自動車に関連する特殊な危険から被害者を保護せんとする自賠法の精神に最もよく合致するものと考えられる。しかして、右「人又は物を運送するとしないとにかかわらず」固有の装置を使用することとの規定は、運行なる概念が、人又は物を場所的に移動するいわゆる運送と異ることを意味すると共に、自動車を当該装置の用い方に従い用いるだけでは足りないこと、つまり自動車の場所的移動を本質的にその前提としていることを示しているものと考えられる。これを要するに、「運行」の疑念は、自動車のもたらす特殊な危険性の存する期間、つまり、その走行中およびこれと密接してその連続線上に在ると目される駐停車中を含み、当該自動車の車種、用途に応じた車両固有の装置のその用法に従つた使用を意味するものというべきである。それ故、車庫内での洗車中の如く走行と断絶された状態の下で、開いた扉によつて人を傷つけた場合などは「運行」中の事故とはいえないけれども、普通貨物自動車の如く荷台を設け、これに荷物を積載して運送することを目的とする自動車にあつては、積荷をして走行している間に荷くずれによつて歩行者を負傷させた場合は無論のこと、目的地附近の路上に駐車して荷おろし作業のなされている間の如く、走行と密接した状態にあり、且つ貨物自動車としての用法、即ち荷台に位置的に関係づけられた積荷を、それから分離するために固有の装置たる荷台そのものを使用している状態下にあつては、未だ「運行」の概念の中に含ましめるのが妥当である。

次に、「運行によつて」とは運行と被害との間にいわゆる相当因果関係のあることを要するものと一般に解されている。しかしながら、自賠法三条但書の規定から推してもこれは「その運行に際して」と同意義に解し、不可抗力の場合は免責事由とするのが相当であると考える。それ故、自動車の運行そのものとは関連性の乏しい事故、つまり自動車に特有な危険から生じた事故とはいい難い場合や、運転者の関知していない状態の下に発生した事故についても、一応運行に際しての事故として、自賠法三条本文の対象となるものと認めるのが相当である。他方、運行供用者側においてその結果発生が不可抗力に基づくものであることを証明すれば、免責されるものと考える。従つて前叙の如く路上に駐車した貨物自動車における荷おろし作業中、誤つて荷物を転落させて他人を負傷させた場合は、自賠法三条本文にいう「運行によつて」生じた事故というべきである。

本件についてこれをみるに、<証拠>を総合すると、原告会社従業員高橋政男が、事故当日三、五〇〇キログラムの鉄筋(一本の長さ約四メートル、直径一六ミリメートルのものを一〇本宛小束にし、これを一〇束毎に重さ約五〇〇キログラムの大束に結束したもの七束)を積載した事故車を運転して、大阪市福島区から兵庫県三田市相生町四一四六番地東鉄工所前の交通量が多く駐車禁止の規制のなされている全巾約一〇メートルの歩道車道の区別のない舗装道路に至り、同鉄工所軒下へ荷おろしをなすべく、道路左側に駐車し、荷おろし作業員たる原告会社従業員の中の一名に運転席から原告会社の連絡事項を話している間に、他の荷おろし作業員二名において、うち一名が荷台前部に上り、他の一名が荷台の左側板と後側板を倒して事故車左後部附近路上に前方を向いて佇立し、左手で後方からの通行人を制止する態度をとつて荷台上の作業員に荷おろしの開始を声を発して合図し、荷台上の作業員において前記大巾の鉄筋一束をバールでこねて車体左側へ投下しようとした時、右佇立中の従業員の左手の下をかいくぐつて被害者(当時五才)が車の左側に歩行進入したため、止める術もなく右鉄筋の大束が被害者の右下腿部に落下衝突したものであることが認められる。右事実からすると、本件事故は、事故車の違法駐車後間もない時点での、荷おろし作業に際して生じたもので、しかも、右作業完了後事故車は速やかに同所をたち去るべき状況にあつたものであるから自賠法三条本文にいう事故車の「運行によつて」生じたものであるといわざるを得ない。

(中村行雄)

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